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2011年9月12日 (月)

福島事態が示す核兵器のリアリティ--「核の傘」の非人道性

 核兵器は破壊と殺傷を目的として設計される。それが使われたときの非人道性を人間存在の深層に届くリアリティをもって伝えることができるのは被爆者以外にはいない。ところが、今回の福島事態は、図らずも私たちの想像力を助け、いまこそ「核兵器は犯罪だ」と言うべきであることを促している。福島事態が照射している被爆と被曝の問題を根本から考えてみたい。

爆風と津波と放射能
 核兵器の爆発エネルギーが殺傷と破壊に至る効果は、広島に投下された原爆の場合、放射能によるものが約15%、衝撃波や爆風によるものが約50%、熱線によるものが約35%と評価されている。爆発後に残るものは累々たる死者、生死の境にある者、さまざまな程度の負傷者と後発性の被曝者、損壊し火災で燃えて遠くまで平らになった街並みであった。
 私たちは、東北太平洋岸を襲った津波の後の一面に瓦礫が残された平地を見た。そこには打ち上げられた尖った船体と僅かに残った家屋の他は何もないように見えた。生き延びた人々は避難し、そうでない人々は海にさらわれたのだ。
 福島第一原発周辺では再臨界暴走・爆発も予想される事故の行方と避難する人々の苦難に人々の関心が集中した。そして3月14日になってやっと10km圏内の危険区域に放射線防護服を着た捜索隊員が行方不明者の捜索活動を始めたとき、私の中で福島事態と核爆発事態とが鮮明に重なり始めた。瓦礫の下に遺体を発見したとき、隊員は遺体に積もった放射能が強すぎて遺体の収容を諦め、その場に放置せざるを得なかった。除染しなければ移動できない重傷の生存者がいたらどうなるのだろうか。
 「1945年と同じ核爆弾が現在の広島に落とされたら何が起こるか」をテーマにした専門家委員会での議論を私は思い出した(注1)。衝撃波と爆風による破壊を津波の破壊に置き換え、核兵器の放射能の脅威を原発事故の放射能の脅威と置き換えれば、太陽の100倍以上の高温が発する熱線を伴っていないことを別とすれば、二つの事態には共通点がある。放射能の強度は桁違いであり、その違いの重要さについては後述するが、にもかかわらず、福島事態は現代における核爆発事態を想像させる助けとなる。

放射能が救護を阻む
 まず、上述したように、たとえ生存者がいても、放射能汚染のために救助ができなくなるということが現実に示された。1945年当時に比較して、放射能の健康被害に関する知見は格段に増加し、それに伴う法的規制も進歩した。とりわけ晩発性の放射能被害は、低い放射能によっても起こりうることが明確になった(たとえば一時的な100ミリ・シーベルトの被曝によっても、0.1%の白血病、1%のその他のガンの発症の後障害リスクがある)。現在の法規制の下では救護員の健康被害のリスクを侵して任務を課することはできない。それでも目前の生命を見殺しに出来ないと、我が身をかえりみず救護に走る人々は出てくるであろう。苦悩の現場がそこに生まれる。
 放射能の知識は、核爆発事態においては福島よりもはるかに広範囲の立ち入り禁止区域を設定させることになるであろう。放射線防護服と訓練された人員を全国から集める努力が行われるであろうが、とてもカバーできない広さとなる。
 たとえ、動けない被爆者を救護したとしても、彼らを収容するためには多人数を処置できる除染体制を各地に確立しなければならない。水源の確保、発生する汚染水や汚染物の保管方法の確保が必要となる。
 このような体制を作ることを考えるともう一つの大問題に直面する。福島事態は救護や事態悪化を防ぐための物資、装置、人員輸送のための道路をはじめとするインフラが寸断されることを示した。最低限のインフラ回復のためにも相当の時間を要した。核爆発事態においても、道路上の車はそのまま動かなくなり道路には死んだ車の列ができて道路を塞ぐ。もちろん爆風で破壊された鉄筋の構造物が瓦礫となって交通手段を封鎖する。1945年の広島や長崎とは違った形で救援体制を阻む幾重もの障害が発生するであろう。福島事態は私たちに想像力を働かせるきっかけとなるリアリティを突き付けた。

初期放射能の猛威
 原発事故と核爆発事故には熱線による殺傷という点において大きな違いがあることを前述した。それに加えて、放射能を論じる場合においても両者の間に決定的な違いがある。それは核爆発には強烈な初期放射能が出るという点である。
 核兵器の起爆装置が働くと、核弾頭のコアで激しい核分裂連鎖反応が始まり、100万分の1秒という短い時間に終了する。この間に弾頭は100万°C以上、数10万気圧の塊となって爆発する。その間に中性子線とガンマ線が全方向に放射される。空気と衝突して多少は減衰するが、致死量以上にこれらを浴びた者はそのまま死に至る。中性子線は核分裂連鎖反応そのものによって発生するが、ガンマ線は核分裂生成物からのみならず、中性子が核兵器を構成する鉄材や地表の建築物、地面を構成する諸元素と反応して発生する。強い中性子線を浴びた元素は放射化してCo60(半減期5.3年)、リン32(半減期14日)、ユーロピウム152(半減期13年)などの残留放射能となり、周辺環境を「放射能野」とする。このように、初期放射能が強烈な故に多くの残留放射能が生み出されるのは、原発事故では起こりにくい災禍であり、上記の救護の困難を倍加させる。

「想定外」とは言えない
 「核兵器が使われるような事態はない」と考えている人が多いのではないだろうか。残念ながら、それは福島原発を襲った巨大津波は想定を超えたものであったと言い訳するのと同じくらい許されないことである。福島原発の場合においても、設計上想定された規模を超える津波の可能性があるという研究が報告されていたことが明らかになっている。
 核兵器爆発の場合もまた、それが今の瞬間にも想定される事態であることが繰り返し警告されている。しかも、起こってしまえば、上述のように被害を軽減するためにとりうる措置は極めて少ない。つまり、絶対に起こしてはならない事態である。
 核爆発を防止するために緊急にとるべきことは、とりわけ日本において、次の2点であろう。
 まず第1に、米国とロシアに警報即発射(LOW)(注2)体制を解除させることである。現在も、両国あわせて数千発の弾道ミサイルが、相手の発射情報を衛星が感知してから3~12分で報復の発射が行われる態勢がとられている。この態勢は、誤動作や無認可の核の発射の危険が絶えずあり得ることを意味している。
 最近の例では、昨年(2010年)10月23日、米ワイオミング州の50発の大陸間弾道弾(ICBM)の発射コントロール機能が45分間失われる事態が発生した。元ICBM管制官であったブース・ブレア氏によれば、原因不明のこの事態は、この間に誤動作や無認可発射を試みた者が発射手順を開始したとしても、それを食い止めることの出来る最後の通信手段が途絶えたことを意味する。
 地中深くに設置されたICBM管制室は、ICBMのサイロと遠く離れたところに設置されており、その間の通信手段が途絶えるといかなる発射の試みも検出できず、キャンセルも出来ない。もちろん、厳重に管理された発射ロックを外す暗号が必要だがそれが漏洩した先例がある。人間は過つ存在であるし、可能性のあることは現実になりうることは過去のさまざまな事故が教えている。ワイオミングの場合、もし45分が始まる直前か直後にハッカー、あるいは意図的な反逆者が発射信号を送ったとすると、気付いてから30分後までは自爆装置でミサイルを爆破できるが、それも不可能になるという。復旧後では間に合わなかった。
 第2に、核兵器を使うことは犯罪であるし、使うことを前提にしている「核の傘」政策を採択することも犯罪であることを明確にしなければならない。しばしばテロリスト云々と言うが、非国家主体や個人に核兵器を使用させないためには、まず国家レベルで核兵器の保有、使用、使用の教唆(核の傘)が犯罪であることを明確にすることが先決であろう。核兵器の闇ルートの根絶努力は必要だが、道義があやふやでは困難である。
 被爆国日本が核兵器の価値を認め、「核の傘」に依存しているという現実を変えることは、日本の最優先課題ではないだろうか。(2011年4月28日記、『核兵器・核実験モニター』375号所収)


1 日本政府が2004年6月に「国民保護法」を制定し、市町村に「核兵器による攻撃」を受けたときの被害想定と対処方法の作成を義務づけたとき、広島市と長崎市は、政府に対して政府自身の「被害想定と対処方法」を示すよう要求した。回答のない政府に対して広島市は核兵器攻撃被害想定専門委員会を組織してシミュレーションを行い、報告書を作成した(2007年11月)。
2 LOW=Launch on Warning

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