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2011年5月 1日 (日)

第2回NPTフレンズ外相会議の評価のために

 2011年4月30日に、第2回「NPTフレンズ」外相会議(非公式の呼び名)がベルリンで開催され、共同声明が出された。第1回は日本政府がイニシャチブをもってニューヨークで開催されたものであるが、その際、以下のような批判的文章を書いた。第2回会議の評価に資することを期待して再掲載する。

日豪主導の新国家グループが初会合:その性格づけと目標を明確にせよ

 日豪両政府の主導によって2010年9月22日にニューヨークのオーストラリア大使館において開催された「核軍縮・不拡散に関する外相会議」が開催された。会議後の共同声明は注1に掲載されている。本論では、外相会議が決定した「継続性のある核軍縮・不拡散国家グループの形成」という日本の核軍縮外交史上初めてとなる挑戦に、何が不足しており、どのような可能性があるかに関して考察する。

米同盟国中心の「国家グループ」
 9月22日に結集した新国家グループ10か国は、固定的なものではないと理解されている。特別な事情がない限り脱退国は出ないと思われるが、参加国が追加されてゆく可能性はある。したがって、以下の分析は、現在の10参加国の組み合わせと9.22共同声明の内容を基礎にすると同時に、今後構成国が変化する可能性のある国家グループであることを前提として行う。
 核問題に関する過去の経歴から現在の10か国を分類すると、米国の同盟国でありその拡大抑止力に依存している国が、主催国である日本、オーストラリアを含むドイツ、カナダ、オランダ、ポーランド、トルコの7か国であり圧倒的多数を占める。それを基礎に1998年に結成された新アジェンダ連合(NAC)に属するメキシコ、非同盟運動(NAM)会議に参加するチリ、アラブ首長国連邦(UAE)が加わっている。アジアから日本だけというのは寂しいが、一応地域的バランスの配慮も行われている。
 以上の構成国を考えると、新国家グループの最大の特徴は米国との同盟関係にある主要な国が結集していることであろう。とりわけ、日本、オーストラリア、ドイツ、カナダの参加はそれを強く印象づける。

「新アジェンダ連合」誕生の歴史
 核不拡散条約(NPT)に関する会議や国連第1委員会における核軍縮・不拡散の問題について、冷戦期以来、国連常任理事国でもある核保有国(P5)に対して核兵器廃絶の急先鋒であるNAM参加国(現在118か国)が真っ向から対立してきた。P5が一枚岩でないように(とりわけ西側核兵器国と中ロの間のギャップ)、NAMも決して一枚岩ではない。とりわけ、NAMの一員であるインド、パキスタンが核保有国になったことによってその傾向は強まった。しかし、NAM核保有国がNPTに参加していない現状においては、P5対NAMという対立構造は現在もなお多くの場面で継続していることは紛れもない事実である。この不変の対立構造が、核軍縮の議論と進展に硬直状態を生み出す一因となってきたことは否定できない。
 1998年にNAC(7か国)が結成された背景には、このような状況を打開する意図があった。もちろん、NAC結成の根本的な原動力は1996年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見や同年のキャンベラ委員会報告といった冷戦後に初めて訪れた「核兵器のない世界」への好機を活かそうという動機にあった。そんな中で、NACはP5とNAMをつなぐブリッジとなりながら核軍縮に具体的前進をもたらそうと意図したのである。
 NACには、米国と同盟関係にはないが友好関係にあるアイルランド、スウェーデン、ニュージーランド、メキシコという軍縮に熱心な国に、NAMに属するエジプト、南アフリカと、いずれにも属さず独立心(ある意味では大国意識)の強いブラジルが加わって形成されている。
 このようにNACは、核保有国とNAMとの双方と明確な一線を画しながら、核軍縮のリーダーシップをとる姿勢を明確にうちだした。その姿勢は、設立宣言とも言うべき新アジェンダ外相声明(1998年6月)が、P5と同様に「NPTに参加していない3つの核保有国」(つまり、インド、パキスタン、イスラエル)に対して厳しく要求を突き付けていることに表現されている。

狙いが不明確な新国家グループ
 新国家グループの誕生とNAC誕生の時代背景には、ある種の共通点がある。いずれにも核軍縮に有利な時代の追い風の後押しがあった。前者にはフーバープラン、オバマ大統領のプラハ演説などがあり、「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の勧告が理論的基盤となった。後者には1995年という冷戦後に迎えた「核兵器のない世界」への希求と被爆50周年の盛り上がりがあり、パグウォッシュ会議・ロートブラット博士のノーベル平和賞受賞、翌年のICJ勧告的意見があり、キャンベラ委員会の勧告が理論的基盤となった。
 しかし、両国家グループの設立声明文を読むとき、それぞれのグループを構成する国家内部の意思一致の成熟度に大きな違いを感じざるを得ない。
 新アジェンダ声明(注2)は、「抑止のためというが、保有していれば核兵器は必ず使われる」「核兵器の完全廃棄の法的約束が守られていない。一日も早く約束を守るべきだ」といった揺るがぬ意思一致を基礎にして、さまざまな段階的措置を提示している。その基礎文書の上にたって、それ以後の国連やNPT会議において7か国が団結した主張を重ねた。2000年のNPT再検討会議における最終合意はNACが牽引車となって達成されたことはよく知られおり、高く評価されている。近年、NACの力が衰えている現実は否めないが、再び力を発揮する機会が訪れる可能性は残されている。
 一方、新国家グループの形成は、政権交代を果たした日本の民主党連立政権の岡田克也外務大臣の意欲が原動力となって出発したと考えられる。また、オバマ政権下の米国に新しい変化の可能性があり、日米同盟を主軸とする新政権の外交路線の中において「核軍縮への新しい接近法」を追求する長期的な挑戦を展望していたかも知れない。
 しかし、残念ながら、採択された共同声明は、どのような国々が何を目指して新国家グループに結集したのかが、はなはだ不明確なものになっている。果たそうとする役割がストレートに伝わって来ない。すでに5月末において、2000年合意よりも前進した2010NPT再検討会議の合意文書が採択されており、そこには64の行動計画や中東決議の実行計画のみならず、それらの前提となる重要な考え方の合意も示されていた。その直後に新国家グループを形成するとなると、主軸となる国家の外務省専門家や関係大使の間で十分な討議が必要であったであろう。その観点から共同声明を読むと、決定的な準備不足の印象が拭えない。
 たとえば、NPT最終文書の中で注目された国際人道法への言及や核兵器禁止条約への言及の部分は、共同声明においてほとんど同じ文言を繰り返すことによって安易に通り過ぎている。
 10か国の結束の不十分さは、現在進行中の国連総会第1委員会にも現れている。いわゆる核軍縮日本決議が新しい形で今年も提出されているが、その内容は10か国共同声明を基礎としていないようである。50を超える共同提案国が名を連ねているにもかかわらず、その中に10か国のうちメキシコ、トルコ、UAEの3か国が加わっていない。

目標を明確にせよ
 あるNGO活動家が好意的に評したように、このグループはNPT会議の合意を基礎として発展させるというよりも、NPTで決めたことを実行に移す役割を担おうとしているのかも知れない。
 日本政府が、そのような控え目な役割に留まることは残念でならないが、たとえそうだとしても、新国家グループの特色を生かし、核兵器廃絶に貢献するためには、その性格と目標を明確にする必要がある。
 私は、日本、ドイツ、カナダ、オーストラリアを含む7つの米同盟国が核軍縮・不拡散のために結集している特色を生かすとすれば、新国家グループの進むべき道は次の目標を明確にすることであろうと考える。もちろん、メキシコ、チリ、UAEも加わっている中での配慮と工夫が必要である。しかし、10か国共同声明に謳われている内容を基礎として次の目標を特色として打ち出すことが出来る。
目標1:安全保障戦略における核兵器の役割を低減させる。(7節(b)項)(注3
 米国の同盟国自身に問われている問題であるし、それだけに米国に強い影響力を発揮できる。同盟国が米国の拡大抑止(核の傘)に依存しない方向性を追求するグループとなれば、世界全体の核軍縮の加速に大きく貢献する。とりわけ日本、ドイツ、カナダ、オーストラリアの間でそのための議論を深めるべきである。
目標2:非核兵器地帯が核軍縮・不拡散に果たす役割について新しい議論を打ち出す。(14節)(注4
 日本は北東アジア非核兵器地帯設立の方向を打ち出すことによって、核の傘に依存しない安全保障に向かうのみならず、北朝鮮の非核化に新しい好影響を与える。カナダは北極海非核兵器地帯(注5)設立を念頭に置けば、米ロの緊張緩和に貢献できる。ドイツ、トルコは東・中央ヨーロッパ非核兵器地帯による米ロ関係の改善とNATOの核兵器依存の変更を戦略的に追求できる。UAEはもちろん中東非核兵器地帯に関係するし、チリは非核地帯先進国としての貢献が出来る。
 「核兵器禁止条約」の早期交渉を求めるいわゆるマレーシア決議に、新アジェンダ連合はすでにすべて賛成している。しかし、新国家グループでは、チリ、メキシコ、UAEが賛成、ドイツ、ポーランド、トルコが反対、オーストラリア、カナダ、日本が棄権である。新国家グループに対して、日本の市民社会は明確な目標を要求する必要がある。(ピースデポ「核兵器・核実験モニター」第363号(2010年11月1日)より


1 http://www.peacedepot.org/nmtr/bcknmbr/nmtr362.pdf
2 イアブック「核軍縮・平和2006」資料Ⅰ-3。
3 1と同じ。
4 1と同じ。
5 パグウォッシュ会議カナダや核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)カナダなどが北極海非核兵器地帯の推進を提案している。

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