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2010年12月11日 (土)

オバマ政権からみた日本の核軍縮政策

共通のキーワードは「核リスクの低減」
 オバマ大統領がAPECのために来日するときのために、ホワイトハウスは「核リスクの低減についての日米協力に関するファクトシート」(2010年11月12日)を発表した。この文書はほとんど関心を惹かなかったが、以下のURLにある。
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2010/11/12/fact-sheet-us-japan-cooperation-reducing-nuclear-risks

 米政府は日本のメディアと核問題に関するやり取りがあることを予想して、この分野での日米協力を整理した文書を必要としたのであろう。文書の言葉を借りるならば、「このファクトシートは核リスクの低減に関する日米政府間の協議をまとめたものであり、両政府が核保安、核軍縮及び核不拡散の分野で協力と協調を深めるという誓約を反映するものである」という位置づけになっている。
 日本の聴衆向けを意図した文書である性格上、日本政府の立場に気を遣い、できることならリップサービスもすることを意図しながら作成した文書であると捉えることが出来る。ということは、逆に、この文書は、①米政府が日本政府の考えをどのように理解しているか、②理解した上で米国はそれにどう応えようとしているか、あるいは、直ぐに応えられなくても将来へのメッセージとして何を印象づけたいか、を知ることのできる文書としての価値がある。

「核リスクの低減」という言葉の文脈
 そのように文書の性格を理解した上で、私がまず注目したいのは、両国の協力を括るキーワードとして表題に「核リスクの低減」という言葉を、米政府が選んでいることである。日本の外務省がこの言葉を最近好んで使うが、そのことを米国が十分認識し、それが米国にとっても共有できる言葉であり活用できる言葉であることを、それは示している。
 しかし、この言葉には米国がこれを都合よく解釈できるという側面がある。日本政府の側にもその側面を好都合に利用する危険、あるいは意図がないとは言えない。
 日本が政権交代をした後にこの「核リスクの低減」という言葉を使い始めたのは、新政策を表現する適切な短い新フレーズを求めた結果であろう。そのときは、「核リスクのない世界」を「核兵器のない世界」に向かう強い意志が土台として存在していることを前提とした上で、それへの過渡期の世界を性格づけるキーワードとして生み出されたと解釈できる。2010年9月22日に国連総会の合間をぬってニューヨークで開催された10か国外相会議においても、この言葉が使われているが、その外相声明においては、10か国が「核兵器のない世界への道程における里程標として核リスクの低い世界のための具体的で実践的な諸措置に関して協力する」と述べている。
 実際のところ、「核リスクの低い世界」という里程標は、どのような里程標なのだろうか。そのための具体的措置というのは、これまでNPT再検討会議の2000年会議や2010年会議で合意された実際的措置とどのように異なるのだろうか。これらの疑問に対する答えは必ずしも明らかになっていない。今回のファクトシートはそれを解き明かす一助になるはずである。
 米国がファクトシートの中で、「核リスクの低減」のために日米で合意したと考えているのは、3項目に分類された次のような内容である。まずファクトシートの内容を要約して紹介し、その後に、梅林と書いて私のコメントを載せる。

1.核保安
 オバマ政権が推進した2010年4月の核保安サミットでの合意を推進し、4年以内に不安な状態にある核物質を皆無にする。そのため技術レベルの高い両国の技術協力を強化する。とりわけ民生利用核施設と輸送における核保安を最高レベルに引き上げること、核鑑定、検出、計測分野で共同活動を拡大する。
 今後民生利用が増えるアジア太平洋地域において、核保安の専門技術の発展・普及を促進する。日本は核不拡散・核保安統合支援センターの設立に努力する。日米核保安作業グループを新規設置する。それを2012年の韓国での核保安サミットの成功につなげる。この分野で日米は世界をリードする。
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 梅林:3項目の中では、両国がもっとも成果を誇示できる分野であると日米ともに考えていることを示している。日米にとって「核リスクの低減」とはこのことである、と読めなくもない。しかし、実際には核兵器が存在し、使用されるリスクにはこれらの方法では対処できない。

2.核軍縮
 日米両政府とも、信頼できる抑止力を維持しながら核兵器の数と役割を減らすために重要な努力が払われていると認識している。米国の核態勢の見直し(NPR)や新START条約がその例である。日本政府は、米政府が消極的安全保証を強化すると決めたことを評価している。米国が現状では核兵器の「単一目標」政策を採用できないが、そのような政策を採択できるような条件の確立を目指していると、日本政策は認識している。
 日米両政府ともCTBTの発効、FMCTの早期交渉開始と締結など多国間交渉の分野の進展が必要であること、また、ジュネーブ軍縮会議の再活性化が必要であると認識している。もし来年中にCDで交渉が始められなければ、日米ともに他の同志国家とともにCDに替わる場を追求する用意がある
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 梅林:この部分は極めて興味深く重要である。米国は「消極的安全保証の強化」と「唯一の目的」を、核軍縮に関して日本がもっとも関心をもっているテーマであり、この点に関して米国が関心を払っていることを示すことが、日本を満足させる重要な要素であると考えていることが、ここによく表れている。しかし、これで「核リスクの低減」がどれだけ出来るのか、その関連はまったく示唆されていない。実際のところ、NPRにおける消極的安全保証の強化についての記述はそんなに積極的なものではなかった。しかも、NPT再検討会議における2010年合意は、法的拘束力を持たせることも含めて、さらなる強化を図るよう協議することを求めている。したがって、日本が消極的安全保証政策において米国に満足していると、11月時点で米国が言うことは、日本の主張の甘さを彼らが見透していることを意味している。「核リスクの低減」という文脈においても、消極的安全保証に関する日米協力は停滞していると言わざるをえない。
 「唯一の目的」に関しても、NPT再検討会議で「核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらす」「すべての加盟国がいかなる時も国際法を遵守する必要性を再確認する」ことが述べられた以上、「唯一の目的」への努力が日本の世論へのメッセージになりうると米国が考えているという状況を、私たちは放置しておけないであろう。核リスクの低減にはもっと根本的なことが問われたのである。
 つまり、核軍縮に関する米国の対日評価は、NPT再検討会議以前の状態に留まっている。言い換えれば、日本政府は新しいメッセージを出していない、ということになる。「核兵器のない世界」への過程における「核リスクのない世界」を目指すとすれば、NPT合意の積極的側面を具体的措置へと形にする努力が、日本に求められるはずである。
 別件であるが、来年中にFMCT交渉がCDで始まらなければ、CDとは別枠で始めると、日米が合意していることは注目すべきことである。積極性を評価するが、一方で消極的安全保証、核軍縮、宇宙軍備競争防止の問題でどのような積極策を取るかを同時に語られなければ、単純に肯定をすることは難しい。

3.核不拡散と核エネルギーの平和利用
 日米両政府とも、IAEAの検証能力の強化を重視し、イランに対して安保理決議遵守とIAEAへの協力を要求し、北朝鮮に対して核兵器と核計画を放棄し、6か国協議の2005年共同声明の遵守と安保理決議1718と1874の遵守を要求する。IAEAと事務局長を支援し、財政を含め職務遂行能力を維持できるよう両国は協力する。また、両国は追加議定書の普遍化のために協力する。
 両国とも強力な不拡散体制を確保するために効果的で透明な輸出管理の重要性を協調する。両国は核供給グループ(NSG)が濃縮・再処理の移転についての管理強化に関する意見の一致を早急に達成するよう求める。
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梅林:この分野では、両国の利害が一致しており、注目すべき記述はない。インドに対する核協力という懸案の問題に触れずに、濃縮・再処理の移転に関してNSGの役割を強化すべきだと主張しているのは、いかにも手前勝手な論理である。インドのように長期間既成事実を積み重ねれば、やがて容認されるという先例を作ったことは、後に災いとなって跳ね返って来るであろう。「核リスク」は、公正なアプローチなしには低減しないことは、イラン問題や北朝鮮問題を生み出している長い歴史的経過からの教訓でもある。

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