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2010年8月 6日 (金)

2010NPT再検討会議:最終文書をこう読む

2010NPT再検討会議:最終文書をこう読む  
―大きな失望、しかし重要な手掛かりが残った

 2010年NPT再検討会議は4週間の会期を終えて、5月28日、全会一致の最終文書を採択して終了した。5年毎のNPT再検討会議の過程を踏まえれば、合意文書としては最新である2000年に比較して今回の合意はいくつかの点において一歩前進したと言える。しかし、プラハ演説に象徴される「核兵器のない世界」への新風を実質ある形として残すことを目指したNGOにとっては、大きな失望と言わざるを得ない結果となった。保有国の核兵器の長期保有の意図が改めて明確となった。それを踏まえた次の運動戦略をじっくりと考えるべき時期である。

1.NPTの3本柱?
 2010年NPT再検討会議を総括するに当たって、会議に至る数年の流れと私たちの取り組みを含む前提的な事柄を書いておく必要がある。
 まず、NPTの3本柱について触れておく。繰り返し言われるNPTの3本柱とは、核不拡散、核軍縮、核エネルギーの「平和利用」である。この3本柱がバランスよく論じられ、前進することが再検討会議を成功に導く不可欠の条件であるとしばしば言われる。確かにNPTがこの3つの問題での取引きをしており、そのバランスを考えことが大切であろう。しかし、条約そのものが3つの間のバランスを大きく欠いて構成されていることを忘れてはならない。条約が成立した1968年という時代の制約の結果である。
 つまり、核不拡散と「平和利用」に関しては、条約はIAEA(国際原子力機関)という恒常的国際組織を活用して、合意を履行するための条件を備えている。しかし、核軍縮に関しては、NPT第6条が核兵器国の核軍備撤廃の義務を規定しているだけであって、義務の履行を支えるための機関をまったく持っていない。
 したがって、バランスの取れた再検討のためには、核軍縮問題の前進のために最大の時間を割き、履行の保証をする制度的工夫のために十分な協議を行う必要がある。単なる形式的なバランス論では、3つの取引きのバランスは取れないのである。市民社会が、核軍縮問題に関心を集中することは、条約の成り立ち上から考えても極めて至当なことである。

2.「核兵器のない世界」への勢い
 もちろん、市民社会がNPT再検討会議において核兵器問題に焦点を当てるのは、そのような技術論が中心的理由ではない。2010年再検討会議に向かって市民社会が真剣に取り組んだ真の理由はもっと切実な本質的要求から来ている。
 2010年再検討会議への準備期間は、「フーバー計画」「プラハ演説」に象徴されるような「核兵器のない世界」への新しい潮流の台頭の期間であった。市民社会はこの勢いを強め、政治的な次の手掛かりを刻印する場としてNPT再検討会議を位置づけて準備のためにエネルギーを費やした<1>。
 「核兵器のない世界」が広く世界の市民社会の共有する目標となるのには、08年10月の潘基文国連事務総長の5項目提案<2>が大きく貢献した。とりわけ、事務総長が、5項目提案の中で「核兵器禁止条約(NWC)」を交渉することの必要性に言及したことは、市民社会を勇気づけ、「核兵器のない世界」の目標を支持する層の厚みを著しく強化した。列国議会同盟(IPU)の潘基文提案を支持する決議(09年4月)、国際赤十字総裁の演説(10年4月)などはそれを象徴するものと言えるであろう。
 このような追い風の中で、市民社会は2010年NPT再検討会議を核軍縮のための包括的アプローチを前進させる場として位置づけたのである。包括的アプローチとは、「核兵器のない世界」を実現するための法的枠組みの全体像(けっして固定的なものではなく、発展し変化するものと考えている)を描きながら、それへの可変的ロードマップを論じることによって核兵器ゼロを実現しようというアプローチである。このようなアプローチの分かり易い形態として、NWCの交渉準備にとりかかることを、市民社会はNPT再検討会議に要求した。
 従来のNPT再検討会議では、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約、FMCT)の交渉開始、戦術核兵器の削減、警戒態勢の緩和などなど、具体的措置の積み重ねが重視されてきた。しかも、それらの具体的措置に関しても、実施手順を明確にするよう迫るというよりも言葉をより厳格にして誓約させる努力に留まることがほとんどであった。市民社会は、NWCをメイン・ストリームの課題とする主張を通して、NPT再検討会議のこのようなありようから脱却することを要求しようとした。

3.核兵器禁止条約への準備
 包括的なアプローチに関連しては、準備期間において、コスタリカ、マレーシアを中心とするモデルNWC<3>の協議の推進、平和市長会議の2020ビジョンに基づくヒロシマ・ナガサキ議定書<4>、グローバル・ゼロのアクション・プラン<5>、IPPNWのアイキャン(ICAN)によるNWC推進運動<6>、日豪政府が支援した「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」<7>とそれを巡る市民運動など、さまざまなレベルでの精力的な活動が展開された。2010年2月に長崎市で開催された第4回「核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ」で採択された長崎アピール2010が、NPT再検討会議に向けて次のように訴えたのは、このような広範な活動の積み重ねが収斂した結果であった。
「核兵器を禁止し、廃絶する条約の準備のために話し合うことを目的として、志を同じくする国家と市民社会の代表が参加するプロセスを創り出そう。そのようなプロセスは潘基文国連事務総長が提案した5項目提案を手掛かりとすべきである。この提案には核兵器禁止条約又は諸条約の枠組みについて話し合いを始めるよう各国に求めた呼びかけも含まれる。」
 
4.米国における逆流
 再検討会議に臨む市民社会は、もう一つの「厳しい逆流」の状況認識を、広く共有していたことを指摘しておかなければならない。この認識は、単に市民社会のみならず、再検討会議に参加した大多数の国が共有していた認識であり、会議全体を支配する意識の一つの層をなす底流を形成していたと考えるべきであろう。それは米国における核兵器への巨額投資に代表される動向に関するものである。多くの国は、オバマ大統領によってもたらされたNPT重視と協調的な外交姿勢を歓迎し、それがもたらしている良好な会議の雰囲気を壊さないため、この状況認識を声高には語らなかった。
 2010年1月に米エネルギー省の2011会計年の核兵器予算の内容が明らかになるにつれて、「核兵器のない世界」への逆流がすでに既定の流れとして米国内で進んでいることを私たちは知った。米国では「核態勢の見直し(NPR)」が未完成であったが、大統領予算はそれを先取りして形成された。そして、予算には年間70億ドルという前ブッシュ政権時代を超える史上最大の高額が核兵器コンプレックスの近代化のために提案されていた。これは、「核兵器が存在する限り、強力な抑止力を維持する」と述べたプラハ演説が、形となって現れた中味であった。
 やがて4月6日にNPRの発表<8>、4月8日に米ロSTART条約の調印<9>が行われ、米国の核兵器政策の近未来像が私たちの目に明らかになった。それは、米国内における核兵器政策の実質は、大きくは変わらないことを示すものであった。その端的な例が新START条約の批准問題に現れている。批准のためには米上院において3分の2の支持が必要だ。その代償としてオバマ政権は米国の核戦力が将来も揺るがないことを示す必要があり、大統領は今後10年に核兵器コンプレックスの近代化のために800億ドル、運搬手段の近代化のために1000億ドル、計1800億ドル(約18兆円)という途方もない巨額の支出を約束したのである<10>。

5.再検討会議の実際
 2010年再検討会議は、5月3日~28日、ニューヨーク国連本部で開催された。再検討会議議長はリブラン・カバクトゥラン大使(フィリピン)であった。
 例年通り一般演説のあとの会議は主委員会Ⅰ(核軍縮)、主委員会Ⅱ(保障措置)、主委員会Ⅲ(平和利用)の3委員会で行われた。より集中的に重要問題を議論する下部機関も混乱無く形成され、下部機関Ⅰ(核軍縮行動計画、安全の保証)下部機関Ⅱ(中東決議、地域問題)、下部機関Ⅲ(脱退、制度化など)という分担が行われた。
 各主委員会の議論はそれぞれの議長の責任で会議中日(第2週の終わり、5月14日)までに集約され、各主委員会は議長案修正の議論に入った。各主委員会の文書の結果は最終週の初日(5月24日)に全体議長がまとめて草案として提出し、全体討論に付された。そのような経過を経て最終日である5月28日に最終文書が採択された(全訳をブックレットに掲載)。最終文書は「運用に関する評価」と「今後の行動勧告」の2つの部分からなるが、注意書きにある通り、前者は議長責任によるまとめであり、後者は全会一致で採択されたものである。

6.核兵器禁止条約:一歩前進と大きな失望
 全会一致の「行動勧告」において、市民社会が今回の再検討会議に求めた「核兵器禁止条約」に関する扱いは、次の3個所に現れている。

 「…会議は、核兵器のない世界を実現、維持する上で必要な枠組みを確立すべく、すべての加盟国が特別な努力を払うことの必要性を強調する。会議は、国連事務総長による核軍縮のための5項目提案、とりわけ同提案が強固な検証システムに裏打ちされた、核兵器禁止条約についての交渉、あるいは相互に補強しあう別々の条約の枠組みに関する合意、の検討を提案したことに留意する。」(「行動勧告」1Bⅲ)

 「核兵器国は、…2000年NPT再検討会議の最終文書に盛り込まれた核軍縮につながる措置について、確固たる前進を加速させることを誓約する。…核兵器国は、上記(注:a-gの7項目)の履行状況について、2014年の準備委員会に報告するよう求められる。2015年の再検討会議は、第6条の完全履行に向けた次なる措置を検討する。」(行動5)
 「すべての加盟国は、ジュネーブ軍縮会議が、合意された包括的かつバランスのとれた作業計画の文脈内において、核軍縮を扱う下部機関を即時に設置すべきであることに合意する。」(行動6)

 つまり、「核兵器のない国」を実現し、維持するために「核兵器禁止条約」のような枠組みを作るために特別の努力を払うべきだと、すべての加盟国が一致したのである。一方で、その実施を促すテコは、従来のNPT再検討過程とジュネーブ軍縮会議(CD)にしか与えられていない。NPT再検討会議は集中力に乏しいし、CDに核軍縮を扱う下部機関を設置する提案は10年以上前に合意しながら一度も開催されていない。しかも、CDの下部機関は意見と情報の交換という極めて弱い任務を持つ機関として同意されているに過ぎない。
 NPT合意文書の中に、このように核兵器禁止条約という文言が言及されたのは初めてである。その意味で市民社会の努力は一つの成果を勝ちとったと言えるだろう。
 しかし、この形の同意文書に至る経過を追うと、核兵器禁止条約に関する言及が、その実質協議につながらないように、核兵器国がいかに内容の骨抜きを謀ったかが明らかになる。ブックレット11ページの囲み記事にその経過を単純なダイアグラムにした。
 主委員会Ⅰでまとめられた原案では、潘基文提案を単に「留意」するのではなく「貢献」と評価し、核兵器国が実際的措置7項目(行動5)についての協議を2011年から始めることを要求し、2014年にはそれを踏まえて国連事務総長が核兵器ゼロへのロードマップを協議する会議を招集する、という内容になっていた。次の2015年再検討会議をそのような経過を経て開催するというプランであった。それがダイアグラムに示したような経過を経て今回の最終文書となった。核兵器国同士が協議する必要は消え、ロードマップ会議も消えた。
 この経過には、前述した米国内の逆流に代表されるように、核兵器国が核兵器の完全廃棄を早期には実行する意思がないことが明確に現れている。
 とはいえ、核兵器禁止条約に言及せざるを得なかった力関係の変化が生まれたことも事実である。オーストリア、スイス、ノルウェーなどが、新しく市民社会を代弁する国として登場したという希望もある。核兵器禁止条約について、市民社会はじっくりと次の運動戦略を練るべきときである。

7.非人道性の文書化
 多くの読者は、核兵器を非人道性の文脈において捉えることは、当然のことのように考えるかもしれない。しかし、核不拡散条約(NPT)は非人道性を規範としてとりいれていない。核戦争の被害の甚大さの認識と核戦争の可能性の低減の必要性という論理で不拡散の条約はできている。1968年の核兵器保有国の現状を余儀なく容認することよって取り引きが行われた条約として、当然と言えば当然である。このことについては以前に詳しく論じた<11>ので、ここでは繰り返さない。
 そのような中で、今回、第6条による核軍縮義務の履行に関する行動勧告(全会一致)において、NPT合意文書としては初めて、国際人道法の遵守の必要性が述べられた。1995年の再検討・延長会議の「原則と目的」文書にも、2000年合意文書にも無かったことである。

「行動勧告1Aⅴ 会議は、核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに深い懸念を表明し、すべての加盟国がいかなる時も、国際人道法を含め、適用可能な国際法を遵守する必要性を再確認する。」

 この重要な結果を生んだのはスイス政府の功績であったと言われている。スイスは、一般演説において、核抑止論を系統的に批判し、その文脈で「核兵器は基本的に非道徳的である」と述べ、「核兵器は国際人道法に照らして、その本性において非合法である」と主張した<12>。また、「核兵器の非正当化」についての研究発表を5月10日にサイドイベントとして行った<13>。このような準備の上にたって、スイスは主委員会Ⅰにおいて、核兵器禁止条約の必要性を訴えた<14>。
 残念なことに、日本政府はスイスの人道法強調の問題提起に沈黙を保ったと伝えられる。

8.3つの時間枠
 「ビジネス・アズ・ユージャル(マンネリ化したやり方)」は許されないという気運が、今回の再検討会議に参加した多くの国にあった。その背景に「核兵器のない世界」へのビジョンの追い風があったことは第2節に書いたとおりである。この気運の表れの一つが、合意が言いっぱなしにならないように時間枠を設けるという傾向として現れた。ノルウェーは一般演説の中で、過去を振り返って「1995年と2000年文書の弱点は、保有核兵器の破壊に時間枠を設けなかったからだ」<15>と述べた。また、主委員会Ⅰにおいて時間枠を含む意欲的な議長報告の草案が出たとき(5月14日)、新アジェンダ連合がそれに応えて「第5節(行動勧告)に含まれているような時間枠に言及することを積極的に評価する」と述べた<16>。
 時間枠を伴う最終文書草案は、核兵器国の介入で薄められたり削除されたりしたが、最終的に次の3事項で生き残った。

◆中東決議の履行
 中東決議とは、1995年のNPT無期限延長の合意の時の条件として、米、英、ロの3か国(NPTの寄託国)が提案して採択されたものである。その主要な実質内容は、「中東に核兵器及び他の大量破壊兵器のない地帯を設立する」「イスラエル(名指しはしていない)が非核兵器国としてNPTに加盟する」などである。
 繰り返し要求され、再確認されていながら、この決議の履行は、15年間何の前進もなかった。謂わば、NPT体制の喉に刺さった棘とでもいうべき状態が続いたのである。現在はさらに、イランの核開発問題がこれに加わって問題はさらに複雑かつ重大になっている。
 そんな中で、今回の再検討会議は、行動勧告Ⅳ7において、次のような時間枠を定めた行動に合意することに成功した。
(a)国連事務総長と米、英、ロの4者が、中東諸国と協議しながら、2012年に、中東非核・非大量破壊兵器地帯設立のための会議を招集する。
(b)上記4者は、中東諸国と協議しながらファシリテーター(調停人)を任命する。ファシリテーターは2012年会議の準備と、会議での合意事項のその後のフォローをサポートする。2015年再検討会議及びその準備委員会に経過を報告する。
(c)上記4者は、中東諸国と協議しながら2012年会議の受け入れ国を任命する。
 イスラエル抜きに同意されたこの行程が、順調に履行されるか否かは楽観できない。すでにイスラエルが最終文書を拒否したという報道がある●17が、一方では最終文書の文言については、NPT開催中に米国がワシントンにいるイスラエル代表と緊密に協議しながら合意したという情報もある●18。

◆消極的安全保証とカットオフ条約
 中東決議の場合と比較すると弱い形ではあるが、NPT加盟非核兵器国に核攻撃や攻撃の威嚇を行わないとする「消極的安全保証」(行動7)と兵器用核分裂性物質の生産禁止を求める「カットオフ条約(FMCT)」(行動15)についても、時間枠の設定が合意された。どちらもジュネーブ軍縮会議(CD)にまず行動を取ることを促した後に、その結果を踏まえて国連事務総長が2010年9月に高官会議を招集することを定めている。両者には同じ考え方が導入されているので、共通の文言を取り出して引用すると次のようになる。

「すべての加盟国は、合意された包括的かつバランスのとれた作業計画の文脈において、…ジュネーブ軍縮会議(CD)が…即時に開始すべきであることに合意する。…再検討会議は、国連事務総長に対しCDの作業を支援するためのハイレベル会議を2010年9月に開催するよう求める。」

 どちらもCDに協議を託しているが、2つのテーマがCDに初めて持ち込まれるのではない。どちらも、CDがその作業計画の中に含むべき主要課題として、すでに10年以上掲げてきたものである。そして、全会一致の同意が得られないために、一度も実質協議を開始できずに時間を浪費してきた。今年のジュネーブ軍縮会議は9月24日に終了する予定であるが、同じような結果に終わる可能性が極めて高い。
 もし、そのような状況で9月に国連事務総長が会議を招集するときは、CDに依存しないプロセスを推進する強力なリーダーシップを発揮する国が必要とされるであろう。また、その時には、CDの存在意義に関わる議論も誘発されざるを得ないと思われる。

9.その他の懸案
 今回の再検討会議で達成、あるいは前進すべきとして事前に掲げられていた課題は多い。そのうちのいくつかの結果を要約しておく。
◆新型核兵器の禁止、あるいは核兵器の質的改良の禁止
 この課題は、核兵器国の反対によって行動から外された。「核兵器の質的改善と開発の停止、高性能新型核兵器の開発の終結」と言う内容が最終文書草案には行動5として入っていたが消去された。そのため行動番号が一つづつ繰り上がったという経過がある。その替わり行動勧告Bⅳに、この問題についての「非核兵器国が抱く正統な関心を認識する」という文言が残った。核兵器国のやる気のなさを示している。
◆非核国への核兵器配備の禁止
 核兵器の非核国への国外配備は、現在NATOへの米国の核兵器配備が唯一の例である。この現状はNPTの条文に違反するという法律論もあるほどの重要問題であり、この状態を解消することが求められた。最終文書草案では「問題として取り組む」(行動5b)と明記されていたが、薄められて「非核国領土への配備」という肝心の文言が消されてしまった。
◆警戒態勢の緩和
 核兵器が、冷戦後20年経つ現在においてもまだ警報即発射(LOW)という高度な警戒態勢に置かれている状況を改善することが求められた。最終文書草案では「作戦態勢をさらに緩和することを考慮する」となっていたものが、緩和に対する「非核兵器国の正統な関心を考慮する」(行動5e)という、慇懃無礼?な文言に薄められた。
◆核兵器国の核兵器、核物質の報告と登録制度
 「核兵器のない世界」に向かうためには、核兵器に関する登録制度が不可欠であろう。したがって最終文書草案は「核兵器国は、保有核兵器の量、構成、兵器用核物質の貯蔵量を定期的に報告すると約束する。できれば標準様式を定めて行う」となっていた。しかし、核兵器国は同意せず、最終文書では「自発的に提供するという目的をもって、可能な限り早期に報告の標準様式について合意するとともに、適切な報告間隔を決定するよう奨励される」(行動21)という文言に変えられた。つまり、義務ではなく自発的報告となり、報告間隔も不明確になった。
◆NPTの制度化、脱退の扱い
 第1節においても少し触れたが、NPTは常設事務局をもたず、5年に一度の再検討会議とそれに先立つ3回の準備委員会とを国連軍縮局が中心に準備する以外に運営体制を持っていない。そこで、脱退その他の緊急事態に対応できるような執行体制や小さな事務局の設置を持つべきだという要求や具体的提案があった。しかし、全会一致の行動勧告には取り入れられなかった。
 制度化については、議長責任の勧告として「再検討サイクルを支援する専任担当官を追加配置する」(第Ⅷ条関連111節)ことが述べられた。また、脱退に関しては、「脱退する権利を有することを再確認」(第Ⅹ条関連118節)するとともに、「脱退国が、国際法の下、脱退前に犯したNPTへの違反に対し引き続き責任を有することを多数の国が強調した」(同119節)と述べている。ここには、脱退問題を差別的に扱う可能性のある大国への非同盟諸国の警戒感と、脱退前の非遵守問題は脱退後も責任追及されるべきだとする当然の主張が、まだ相互理解に達していない現状を見ることができる。

10.変わらぬ影の薄い日本
 政権交代した日本が、2010年NPT再検討会議において新しい働きをすることが期待された。しかし、実際にはこれまでとほとんど変わらぬ核軍縮・不拡散外交が行われた。新政権としては実に貴重な政策転換の好機を逃したと言わざるを得ない。2つの側面から問題を指摘したい。
 第1は、臨機応変な外交体制の不在である。日本政府とオーストラリア政府が「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)を支援した経過を基礎に、今回の再検討会議に向けては両国の事前協議が行われ、会議では共同提案を行った。16項目のパッケージが発表され、それが作業文書となった(『核兵器・核実験モニター』353号に掲載)。同号で述べたように、作業文書の内容は新味のないものであった。
 しかし、それは冒頭文書であるから、手堅い提案から初めて基礎を固め、会議の動向を見ながら、効果的なタイミングで新機軸の提案を出し、結果的には斬新な成果を獲得するという方法があってもよい。
 しかし、実際はほとんどそのような生きた外交を展開する意図がなく、最初の消極的姿勢のまま終わったように見受けられる。臨機応変の対応をするには、問題に精通して政治判断を下す政治家と現地交渉者との緊密な協議体制を会議期間中も維持することが必要である。日本のNPT会議に臨む外交姿勢には、そのような本気がまだ現れていない。
 第2は、より本質的な問題である。会議のどの段階であれ、新機軸の提案を出し日本がリーダーシップを発揮するためには、核軍縮の現局面の鍵となる領域について、日本自身の核政策について政府内の本格的議論が必要である。具体的には、今回、NPT史上初となった2つの領域、つまり(1)核兵器禁止条約など法的枠組みの問題と(2)「核兵器の非人道性」に関わる国際法遵守という問題は、日本の「核の傘」への依存政策と深く関わっている。従って、「核兵器に依存しない安全保障政策」へのシフトを念頭におく政治理念がしっかりしていなければ、この領域でリーダーシップを発揮することができないと言っても過言ではないだろう。このことは、日本の政策転換が直ちに行われなければならないことを意味しない。向かうべき方向について理念の共有が政府内で図られているかどうかがもっとも重要な問題である。それがあるか否かが生きた外交の場で大きな違いを生むであろう。
 
<注>
1 この期間については梅林宏道「核軍縮:2008-9年の概観」(ピースデポ刊イアブック「核軍縮・平和:2009-10」)を参照。
2 ピースデポ刊イアブック「核軍縮・平和:2009-10」資料2-1
3 M・ダータン、F・ヒル、J・シェフラン、A・ウエア「地球の生き残り:[解説](モデル核兵器条約)」(編訳:浦田賢治、08年7月、日本評論社)
4 http://www.mayorsforpeace.org/jp/giteisho_pack.pdf
5 『核兵器・核実験モニター』333号(09年8月1日)
6 http://www.icanw.orag/
7 『核兵器・核実験モニター』343-4号参照(10年1月15日)
8 『核兵器・核実験モニター』349-50号参照(10年4月15日)
9 『核兵器・核実験モニター』351-2号参照(10年5月15日)
10 ホワイトハウス記者発表、2010年5月13日。W・ピンカス「ワシントン・ポスト」(2010年5月14日)
11 『核兵器・核実験モニター』331-2号参照(09年7月15日)
12 http://www.reachingcriticalwill.org/legal/npt/2010 所収
13 研究レポートはスイス外務省の委託を受けてモントレイ不拡散研究所が行った。報告書「核兵器の非正当化―核抑止の妥当性を検証する」は下記で読める。
http://cns.miis.edu/opapers/pdfs/delegitimizing_nuclear_weapons_may_2010.pdf
14 12と同じ
15 12と同じ
16 12と同じ
17 たとえばエルサレム発「朝日新聞」(10年5月31日)。
18 外交筋の情報として「abolition-caucus」にNGO参加者が伝えた(2010年6月1日受信)。

*ピースデポ・ブックレット「2010核不拡散条約(NPT)再検討会議―市民社会からの総括」(2010年8月6日)所収。本稿は、『核兵器・核実験モニター』354号、355号に連載した記事を元に著者が書き改めた。

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