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2009年10月11日 (日)

《講演》オバマ政権と米軍再編(09年1月27日、於名護市)

 アメリカオバマ政権が誕生し、変化の兆しが感じられる。今日の講演では、この変化をどういうふうに生かせるのかという材料を少しでも提供できたらと思います。
 しかし、この変化はなかなか手ごわい中身を持っていて、オバマ大統領になったからすぐに何かできるというような変化ではなく、やや込み入っているように思えます。
 オバマ政権の話に入る前に、まず、「米軍再編とは何だったのか」を駆け足で振り返っておく必要があります。米軍再編はここ数年、日本でも目に見える形で進行しました。それを動かしていた力、考え方、論理を振り返ることで、「では何が変わりうるのか」を考えなくてはいけない。
 ブッシュ政権が進めた世界的な再編を振り返ります。

米軍再編の二つの動因
 米軍再編には二つの動因がありました。一つは、長期的な米軍のトランスフォーメーションです。三〇年、二〇二五年くらいまでを展望したような、米軍の大きなトランスフォーメーションが進行しています。そしてそれに見合った形で、米軍再編が行なわれているのです。その背景には、「二一世紀型の脅威」に米軍が準備しなければいけない、冷戦終結後、新しい形の脅威を見つめて、米軍が変わっていく。しかし、すべてが変わるということではなくて、ロシア・中国を睨んだ警戒を忘れない、というような構えです。  その結果、 軍事的には二つの特徴が現れました。一つは、「陸・海・空・海兵の統合化」です。それまで長く歴史的にそれぞれが独立した部隊として動いてきて、戦争時にはそれが一時的に統合されるという形だったものを、二一世紀型の脅威に備えるためには、平時においても常にこの四軍が一つになって動けるような体制が必要だ、ということです。
 「二一世紀型の脅威」とは何か。それは、冷戦時代とは違って、いつ、どういう形で、誰が、アメリカに脅威、打撃を与えるか、予測が非常につきにくい。具体的には、テロリズム・大量破壊兵器・ミサイルの脅威・潜水艦・宇宙に展開している人工衛星が破壊されるという宇宙への脅威・そしてサイバー空間が攻撃される、そういう形をとったものが二一世紀型脅威と呼ばれるものです。それに対抗するための四軍の統合が言われました。そして、特殊作戦部隊(SOF)の出番が非常に増えるということで、それまでになかった新しい任務を持った特殊作戦部隊、あるいは既存の特殊作戦部隊を、さらに任務が複雑化し、しかももっと大勢の兵を動員した部隊をつくることが課題となりました。
 こうした数十年かけて米軍自身の大きな転換をするという一つの長期的な流れが背景にありました。 一九九七年にクリントン政権で明確に打ち出され、軍の中でずっと継承されている大きな流れです。
 もう一つの比較的短期的と考えられた動因が、体制の見直しの中で生じました。それは9・11以後生まれた、急速にグローバル化した対テロ戦争を中心とした事態に対処できないといけないという考え方です。当初は短期的なものとして打ち出されましたが、現在では、長期にわたる戦争になるだろうと言われて、一つの大きな流れとなっています。
 この二つの要素が、再編を必要とする力としてずっと働いて戦略が考えられてきたのです。

世界的再編の五原則
 そういう流れの中で、米軍再編には、「五つの原則」が掲げられました。
一、同盟国の役割を強化する―同盟国を巻き込んでいくということです。
二、不確実性と戦うための柔軟性を高める―臨機応変に基地展開ができることを目指しました。
三、地域内のみならず地域を超えた関心を強める―ある一つの基地は、その周辺で戦うための基地ではなくて、絶えずそこから出て行くことを見据えた役割を担うということで、これは韓国において典型的に実行されています。それまでの在韓米軍は、朝鮮半島有事の部隊と定義されていましたが、この再編の過程で、在韓部隊は韓国からさらに先に展開する「地球軍」の一つであると、国と国との合意文書の中に明確に、「戦略的柔軟性」という言葉で合意されています。
四、迅速に展開する能力を発展させる―輸送能力の強化、そして法的整備という両方を含むようなものです。できるだけ迅速に展開できる能力の強化と、同盟国に対しては、同盟国から次に展開できるような法整備を要求しています。
五、数ではなく能力を重視する―一見すると数は減りますが、能力が強化されていく。
 こうした原則で、世界的な再編を進行させました。これは確実に、さまざまなところで行なわれたことです。

「蓮の葉戦略」と三つの基地概念
 基地というものを見ると、この五原則のもとで何が変わったのか。世界的な基地をメリハリをつけて、あるところでは縮小し、新しい場所に基地を作り、新しい基地で全体的に役割を変え規模を変えるということが進行しました。
 一番大きい基地を「主要作戦基地」(MOB=Main Operating Base)と呼び、ここには永久配備をする部隊が存在して、家族もそこに住む。従って、家族のためのいろんなケアを必要とし、そのための施設を作る。学校やゴルフコース、フィットネスクラブなどがあるという具合に、日本や沖縄の基地が持っている機能を備えた作戦基地です。
 二番目は、「前進作戦基地」(FOS=Forward Operating Site)と呼んでいが、旅団規模、数千から一万規模の部隊がローテーションで六ヵ月くらい滞在できるような規模の基地です。初めて旧ワルシャワ条約機構の国に作られたブルガリアの基地や、ルーマニアの基地などは、前進作戦基地という想定で作られ、協定を結ぶときもそういう名称が使われています。
 三つ目は、「安保協力地点」(CSL=Cooperative Security Location)。常駐部隊は置かないけれども、必要なときに使えるような協定を作っておくことで、いつでも必要な時に展開できるようにする。
 こういう概念で基地を整備することを、「蓮の葉戦略」と呼んだわけです。池の上に大中小の蓮の葉が浮んでいて、その上をカエルが飛びながらどこにでも行けるというイメージで、地球上に蓮の葉状の基地を展開するのです。

自衛隊のトランスフォーメーション
 まさにこの考え方をもって、日本の自衛隊を作り変えることが進行しました。形をとったのが二〇〇四年一二月の新「防衛計画の大綱」です。それ以前の大綱は二〇〇五年までの期間があったのですが、それを一年繰り上げて、大慌てで新しい大綱を作った背景には、米軍再編のアメリカの考え方に日本の自衛隊も早くあわせる必要性があって、日米の密接な関係の中で、自衛隊自身のトランスフォーメーションが深く進行したのです。そこではある種の合理性のある変化をしたと思います。それ以前の大綱は、冷戦が終結したにもかかわらず、冷戦時代と同じように本格的な侵略事態へ備えた重戦車侵略防止部隊というような色彩をもった大綱でした。
 それをアメリカの考え方にそっくりあわせる形で、防衛力の役割の一番目として、「新たな脅威や多様な事態への実効的な対応」、つまり二一世紀型の脅威をトップに掲げるように、自衛隊も様変わりした。その中身として、
(ア)弾道ミサイル攻撃への対応、
(イ)ゲリラや特殊部隊による攻撃などへの対応、
(ウ)島嶼部に対する侵略への対応、
(エ)周辺海空域の警戒監視および領空侵犯対処や武装子作戦などへの対応、
(オ)大規模・特殊災害などへの対応
と、日本の市民が考えやすいシナリオを中心にした防衛力の態勢に様変わりした。
 防衛力の役割の二番目に来るのが「本格的な侵略事態への備え」、そして三番目が、以前からなかったわけではないけれども新大綱では非常に重要視されて置かれていることに注意しなければなりませんが、「国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取り組み」ということです。海外における自衛隊の任務をより明確に位置づける、しかし、憲法の手前上言えることはこういう表現になるのであろうと思います。

日米戦略協議―三点セットの合意文書
 こういう大綱に作り変えた自衛隊と米軍が、ではどういうふうに新しい協力関係を作るのか、そして米軍基地をどういうふうに再配置するのか、という話し合いをしたのが、「日米戦略協議」です。二〇〇三年の秋ごろから三年かけて、「2プラス2」と呼ばれる日米の外交・防衛大臣が協議をするという文書まで登りつめる合意文書を、三段階かけて作り上げました。この三つの文書は、今でも大事な日米合意の指針になっています。
一、「日米共同声明:共通の戦略目標」(〇五年二月一九日)
二、「日米同盟の転換と再編」(〇五年一〇月二九日)
三、「実施ロードマップ」(〇六年五月一日)が提示され、それを行動に移すということになるわけです。
 二〇〇五年にこの一段階目の「共通の戦略目標」を日米で合意しました。この中で、アメリカの言う世界的な再編の考え方が、ほぼ日本との合意事項の中にも盛られるということが行なわれました。つまり、世界の安定化に日本もそれなりの貢献をしなければならないという論理が明確に書かれたのがこの「共通の戦略目標」です。そこでは「グローバルな脅威」が、両国のキーワードになっています。もちろん、憲法の制約のもとで議論できることは限定されますが、考え方の共有という面では、 アメリカの考え方を日本もそのまま応用したということになります。
 その中で、米軍と自衛隊との協力関係をより強力にし効率的にしたのがこの間のプロセスであり、そこに今度はオバマ政権が登場したわけで、この流れがそう一朝一夕に変わるわけではないということを、ある程度はご理解いただけるのではないかと思います。

オバマ政権とは何か
 しかしオバマ大統領は、白人の大統領にはない、彼がずっと経験してきた、父親の世代からの様々な、それこそ自分の身についた考え方というものがあると思います。そういうものが就任演説の中でも随所に現れていたと言えます。例えばこういう箇所がありました。
《……我々の先達たちは理解していた。力だけでは我々を守ることができないし、好きなことができるわけではない。 むしろ、先達たちは力は思慮深く使うことによって増加すること、主張の公正さによって安全が増すこと、範を垂れることの力、人間らしさや自制することが生み出す説得力を知っていた。》
 ブッシュの考え方と正反対の、「力ではない」という、物事が実際に持っている説得力の大切さを見事に表現しています。
《我々はこの遺産の守護者である。この信条にもう一度導かれて、より過酷な努力、国家間のより深い協力と理解が必要となる新たな脅威に立ち向かうことができる。》
 世界的に、深刻で簡単ではない、過酷な努力が必要であるけれども、それを解くためには、前半で言われているような、力ではないものの持っている力が大切なのだ、ということを述べています。これは、ある正しい進路をもった、聞く耳を持って対話をする可能性を持った指導者が現れたことを感じさせます。そういう意味で、私も、ある変化が起こっているということを感じます。
 しかし、実際に何が起こっていくかを考えたときに、もう少し現実を見ていく必要があります。まだ全部が決まっているわけではありませんが、オバマ政権ではこのような人事が、日本との関係では起ころうとしています。
 まず、ロバート・ゲイツ国防長官が留任します。彼のもとで東アジア・太平洋国防次官補にウォレス・グレグソン、沖縄の四軍調整官を担当したことのある軍人が、就任しそうですね。
 それから、ヒラリー・クリントン国務長官。 そのもとで東アジア・太平洋担当の国務次官補にカート・キャンベル、 彼も馴染み深い人で、クリントン政権時に日米安保再定義のプロセスに重要な役割を果たした人です。それから、ジョゼフ・ナイ、彼もその時に重要な役割を果たした一人で、おそらく駐日大使となるでしょう。
 国家安全保障担当で、安全保障会議を取り仕切ることになる大統領補佐官としてジェームズ・ジョーンズ。彼も海兵隊出身で、NATOの長官をした男です。

ゲイツ戦略―修正されたブッシュ戦略
 ゲイツはブッシュ政権の第二期、ラムズフェルド国防長官のハードラインをソフトに転換する役割を担って登場した国防長官です。彼がオバマ政権に登用されたことは自然な流れだと、私は思っています。ブッシュが国防戦略の転換を強いられたときに、ゲイツが登用さました。去年の六月「国防戦略」という文書を彼のもとで作っていますが、この「ゲイツ戦略」は、今のオバマの戦略に近いことを述べています。イラクやアフガニスタンの問題も、私たちから見るとそんなに違っていないということです。だから、ゲイツがやり始めていることを、もう少し良く見ておく必要があります。
 ゲイツはもちろん、ラムズフェルド国防長官が展開した考え方を、軍事によってしか達成できないという非常に強い確信があり、軍事思想の基本を維持している。これはアメリカのほとんどの指導者に共通するものの考え方であろうと思います。
 それを前提として、しかし、イラクもアフガニスタンも、ブッシュ政権のやってきたことは間違っていたというより非常に不十分だった、という反省を必要としてきています。
 その影響として、単独行動を否定し国際システムを評価する。軍事力とは相対化されるべきものであって、「ソフト・パワー」が非常に大事であると、ゲイツ自身がブッシュ政権下で言い始めていた。そのようなゲイツ戦略がすでに進行していたということです。
 彼が言っていることを、いくつか紹介します。

ゲイツ戦略
目的
一、国土の防衛
二、暴力的な過激主義者との長期戦争に勝利する―これは、「対テロ戦争」と呼ばれているものです。
三、安全保障を促進する―戦争の防止、国際システムの活用ということで、国連などを重視することを匂わせています。
四、紛争を抑止する―これは軍事力を第一義的に考えています。しかし、先の三番目とリンクさせながら考えています。
五、国家間戦争に勝利する―中国やロシアを含めて、イラン、北朝鮮、国家間の戦争に勝利する。

手段
一、主要国家の選択肢形成―これは、例えば日本で考えると、日本が何をすべきかという選択肢を、アメリカ主導でパッケージすること。主要国家がどういうことをやるとアメリカが考えている世界的な秩序を保つことができるか、というふうに選択肢が増えるようにアメリカが形成し提示する。ですから、選択するのはそれぞれの国だけれども、どういう選択がいいかについて、アメリカは充分具体的に相手にわからせるということです。
二、敵に大量破壊兵器を入手させない―これは不拡散。
三、同盟やパートナーシップを強化・拡大する―ラムズフェルドも言っていたことですが、やはり軍事同盟が重きをなす。
四、戦略的アクセスを確保し行動の自由を維持する―これは軍事的なことで、アメリカは一貫して、行動の自由を確保できるように、基地の問題、あるいは訓練を維持できることを考えています。
五、諸事業を統合し団結、新しい「統合性」―先ほどの「国際システムを活用する」とか、「軍事には限界がある」というような考え方で、軍と軍でないものの間に新しい協力関係を作って、それ全体が「新しい統合」、陸・海・空・海兵の統合ではなくて、文民機関も含めた国防省の統合という考え方を示唆しています。

 彼らが言っていることで、わかりやすいところをいくつか紹介したいと思います。
 ゲイツ戦略の一番目、「過激主義との長い戦争」。対テロ戦争について、こういうことを言っています。
《軍事力の行使には役割がある。しかし、テロリストを捕らえたり殺したりする軍事的努力は二次的なものであり、地域で政府への参加や開発を刺激する経済プログラムへの参加を促進する措置や、しばしば反乱の核心にある不平・不満を理解し対処する努力に従属すべきものであろう。したがって、考えるべきことは、暴力的な過激主義者との戦いにおける最も重要な軍事力の役割は、我々自身が戦闘することではなくて、我々のパートナーが自衛し統治するのをいかにうまく援助できるかにある。》(ゲイツ「国防戦略」〇八年六月)  しかし、次の「抑止」というところで彼が言っていることは、
《信頼できる抑止能力によって、合衆国国民や同盟国は防衛の約束が守られることを再確認する。ゆえに、抑止は国際安全保障への広範囲の挑戦に対処しうる軍事能力に基礎付けられなければならない。たとえば、合衆国は核攻撃を第一義的に抑止できる核兵器を維持する。「新しい三本柱」(これはラムズフェルドが考えたものですが)は戦略的抑止の基礎であり続ける。我々はまた、広範囲の信頼できる対応手段を指導者たちに与えるために、核兵器を補い、場合によっては代替する通常兵器能力を配備し続けなければならない。》(同前)
 つまり、軍事的な抑止が基礎として存在し続けなければ、ソフトな対応が生きる状態を維持できないということが、一方では言われているわけです。
 ゲイツ戦略の三番目の「新統合主義」、いろんな力を統合するということです。
《イラクとアフガニスタンは、軍事的な成功だけでは勝利できないことを我々に教えている。我々は、高価な犠牲を払って得た教訓を忘れてはならない。重要なソフト・パワーが退化し、消失さえしている故に、それを発展させなければならない。安全保障に留まらず、長期的な成功のためには、経済的発展、制度の構築、法の支配、国内の和解、……が必要である。一つの国家として、我々は軍事能力の強化のみならず、国力の他の重要な要素を再活性化し、必要に応じてそのような力を統合し、適切に組み合わせ、適用する能力を開発しなければならない。》(同前)
 ということで、軍事力を基礎として維持していく、しかし、ソフト・パワーを充分にそれとうまく組み合わせていくことができるようにしなければならない、ということが既に始まっていたのが、ブッシュ政権後期におけるアメリカの国防戦略であったわけです。ですからオバマ氏が彼を登用したことは、もちろんいろんな影響を考えたと思いますが、やはりゲイツの考え方というものと、そんなにかけ離れていないという認識があったと思います。

クリントンのスマート・パワー
 ヒラリー・クリントンの国務長官就任承認演説で、しきりに言われたことが、「スマート・パワー」という言葉でした。その言葉をキーワードにして、彼女は新しい外交方針の考え方を述べました。「賢い力」という言い方をしていますが、力を基礎にして、しかし、スマートにやるということです。
 この「スマート・パワー」という考えは、新しく駐日大使になろうとしているジョゼフ・ナイが作り出したものです。この「連続性」と「新しいところ」を見ていただきたいのですが、非常に象徴的な二つの文書があります。ひとつは、『日米同盟』(二〇〇七年二月)、アーミテージとナイの共同でまとめられた報告で、日米同盟が二〇二〇年に向かってどうあるべきかを議論した、日米同盟に焦点を合わせた論文です。その背景としてあるのが、二つ目の文書、『スマート・パワー』(アーミテージ・ナイ、二〇〇七年一一月)という、戦略研究所(CSIS)が「スマート・パワーに関する委員会」を作って、日米同盟に限らず全般的なアメリカ外交のあるべき姿を書き上げたものです。二〇〇七年の二月と一一月ですから、この人たちの頭の中には同じものが存在していたと考えるべきだと思います。
 ナイたちがこの『スマート・パワー』で何を書いているのか紹介しましょう。
《ハード・パワーとは、国家が得たいものをアメとムチで得る能力である。……軍事力は国家を打ち負かすのには適しているが、理念と闘うには貧弱な道具である。》―やはり軍事力の相対化をします。
《ソフト・パワーとは、強制しないで人々を我々の側に惹き寄せる能力である。……合衆国の最大のソフト・パワーの源は、単純に米国が国家として成功していることにある。》―そう彼らは言っていますが、合衆国に移住したいという人がどんどん増えて、人種の坩堝と言われる合衆国が出来ている、これは成功の証なのだ、成功している合衆国の持っている姿そのものがスマート・パワーとしてアメリカが持っている財産である、という考え方で、これはオバマ氏の演説などにも出てくる側面だと思います。
《スマート・パワーは、ハードでもソフトでもない。両者の上手な組み合わせである。》

スマート・パワーの限界
 しかし、やはりこの文書の中に出てくる二つの文章があります。私はこれに「スマート・パワーの限界」と見出しをつけたいのです。
《ペンタゴン(国防総省)は連邦政府にとってもっとも訓練され、最大の資金を与えられた腕である。その結果、あらゆる空白を、文民機関が埋めるべき空白さえも、埋めようとする。合衆国は、軍事的優位を維持しなければならない。しかし、今日においては、ハード・パワーだけでは達成できることに限界がある。》
 やはり「軍事的優位を維持しなければならない」ということが絶えずあるんですね。
 一方で、スマート・パワーの議論の中では、
《たとえ、ソフト・パワーによるものであっても、いかなる国も操作されたくない。》
 つまり、外交の力であってもアメリカが操っていることが見えるようであっては、それに逆らう感情が当然生まれてくる、という認識も述べられています。
 これは私に言わせれば、非常に矛盾した認識です。つまり、軍事的に優位を保つ国は、絶えず軍事力を背景にものを言っていると見られざるを得ないわけです。ですから、軍事的優位を維持するということと、操作されたくないという中で自分たちの持っているソフト・パワーを使うということの間には、非常に大きな矛盾があって、その緊張感をどこまでうまく使いこなせるのか。それを使いこなすときに、軍事的優位は非常にマイナスになる。ですから、軍事力を相対的に下げることによってこそ、そういうことが少しでもできるようになるのだという認識は、残念ながら生まれていない。それが「限界」という言葉になります。
 実際に、そのことが見事に出ているのが、先ほどの二つのアーミテージ・ナイ報告に出てきているものと同じ人たちによって書かれたものです。目を見張るようなことが一方には書かれています。
 『日米同盟―二〇二〇年へ、アジアをあるべき姿に』(〇七年二月)、これはスマート・パワーを語る人たちが、日米同盟に対して何を望んでいるのかを述べているものです。
《憲法の制約が日米同盟の強化に限界を与えているとの認識を踏まえている憲法論争を歓迎する。 》―憲法改定の国会議論が出ていることを、非常に歓迎しています。
《自衛隊海外派遣は特措法ではなく恒久法での議論を歓迎。》
《日本の軍事予算はGDP比で世界一三四位であり、 少なすぎる。》―つまり、GDP一パーセント枠を突破しろ、ということです。
《自衛隊は海外での人質救出作戦を計画・訓練すべきだ。》
《武器輸出禁止の解除をミサイル防衛に限定せずに拡大する、科学技術予算を防衛技術研究開発費に使えるようにする、ミサイル防衛の特別予算枠を作る、などを考えるべきである。》
《次世代イージス・ミサイル巡洋艦の日米共同開発を目指すことによって、ミサイル防衛協力を拡大することができる。》
《日米防衛産業の協力の実現を目指すべき。そのために、機密保護のための包括的な協定を作ることが必要。》
《早期警戒、諜報分野における日米協力を強化するために宇宙の安全保障利用の国会議論を歓迎。》

オバマ・バイデン・アジェンダ
 ではここで、オバマ政権が出した「オバマ・バイデン・アジェンダ」(〇九年一月二一日、ホワイトハウス)を見てみましょう。
・ 特殊作戦部隊、文民対策、情報作戦などの強化
・ 陸軍六万五〇〇〇人(現四九万三〇〇〇人)海兵隊二万七〇〇〇人(現一八万人)の増員―定員増は選挙中から公約していたことで、地上展開部隊の負担が非常に重くなっている、イラク、アフガニスタンでの兵員展開で非常に疲弊している、ローテーションが非常に激しくなっているの で、人数を増やすことによって兵士たちの負担が軽減されて、少しでもゆとりが出てくる、というのがこの増強です。そういうこともやらなくてはいけないというのが、当面の政治選択で、久しぶりの増員ということになります。
・ 通常兵器戦争と反乱鎮圧作戦との間の兵器バランスの再検討―これは、やはり冷戦時代の戦車部隊などをまだ引きずっていく、通常兵器重視の体系が米国内にもあるということと、今必要とされる反乱鎮圧作戦で必要な装備とが違う中で、後者にもっと配慮されるような兵器のバランスを実現していく、ということです。
・ グローバルな航空アクセス、無敵の地上攻撃能力の維持―先ほどの「ゲイツ戦略」と重なると思うのですが、今アメリカが世界で兵力を展開するときに、空から攻撃をするというのがパターンです。イラクしかり、アフガニスタンしかり。ですから、グローバルに空から攻撃ができるアクセスを確保し、維持し続けること。それから、空からの地上攻撃によってハイテク兵器がどんどん更新されているわけですが、そういう能力を維持していくことを再確認しています。
・ 海洋での兵力投射力の維持(海軍装備の近代化、海兵隊の投入能力)―これは日本と非常に関係してきますが、兵力を海の輸送で投入できる、これは空母が代表的な力になると思いますが、もう一つは、海兵隊を運ぶ、佐世保の船と沖縄の海兵隊が一体となることの強化というようなことが書かれています。
・ 実用的、対費用効果の高いミサイル防衛の開発―ただし、ここには条件を書きませんでしたが、「本当にミサイル防衛が役に立つのであれば」、ということを言っています。
 ですから、軍事力に目を向ければ、やらなければいけないことはずっと継続されているということが、述べられていると言えます。
・ 宇宙における自由の確保―これは、衛星を防衛するということの言い替えです。宇宙での行動を妨げるようなことを許さない。ここでは新しい宇宙条約を作るということを言っていますので、そういう意味ではソフト・パワーも含めたような内容で、軍事力だけではなく、宇宙への攻撃をさせないような合意を作るということも入っています。
・ サイバー空間での防衛
・ 二万五〇〇〇人の文民援助隊(CAC)の新設―これは全く新しい提案で、ソフト・パワーの軍事力との結合の新しい形です。文民だけで作られる援助隊。どちらかと言えば今NATO軍がやっているような領域に、アメリカも新しく乗り出すということだと思います。
・ 同盟関係のトランスフォーメーションと強化(アフガニスタン、国土防衛、対テロなど)―これも日本と直接関係してくる考え方です。「国土防衛」とは、アメリカだけでなく同盟国それぞれの国土の防衛です。対テロなど、いろんな国が共通で抱えている問題、そしてアフガニスタンはイランの存在もあるという言い方をしているわけで、それに共通で取り組むために、同盟関係というものを転換し強化する。日本でもよく言われるように、「日本の役割」というものを明確に要求される、という考え方です。
・ 友邦・敵を問わず「タフで直接的な」外交―イラン、北朝鮮とも直接的に話す。ブッシュ政権では一時それをやらなかったのですが、そういうことをやるということがたびたび出てきます。「友邦・敵を問わず」というわけですから、日本ともタフで直接的な外交をする、言うべきことは言う、要求することは要求する。逆に言えば、日本もタフでダイレクトにできるということを意味します。ですから、明確に主張を掲げた外交をする。
・ アジアにおける効果的な枠組みの追求―今の六ヵ国協議のように、テーマを定めたような対話の枠組みだけではなく、もう少し包括的で地域のもとでよく話し合うような、そういう枠組みをアジアにおいては追求したいということで、これは中国を含めた枠組みと考えると、一つの新しい後押しになる可能性はあると思います。

 「オバマ・バイデン・アジェンダ」という形で書かれている具体的な問題は、やはり、軍事力に関しては多くが継承されていく側面が強い。一方で、ソフト・パワーあるいはスマート・パワーというものを掲げて、違ったアプローチをするという側面も随所に出てくるというのが、今のオバマ政権の現れ方です。

オバマ政権と日本政府の「チェンジ」
 アメリカ側から見たときに、ブッシュ政権が取り組んだ〇一年から〇九年におこなわれた日米同盟のトランスフォーメーションは、そう変更する必要性を彼らは感じていないと思われます。「日本はもっと国際舞台で軍事力を含めた貢献ができるべきである」というのが、民主党・共和党の党派を超えた、知日派と呼ばれる人たちの認識です。その方向に少しずつ進んでいるので、大きな変更が必要であるとはたぶん思っていない。
 しかし、確かに、オバマ政権が生まれたこと自体が持っている「変化」の意味合いは、非常に大きい問題が一方であります。それはやはり、「聞く耳」を持つスタンスを持った政権が誕生した。米国民の中にも、いろんな「変化」を受け入れる余地がある。そういう意味で、「聞く耳」は強まったということではないか。
 ですから、オバマ政権のチャンスをどう生かすかは、日本政府に変更の意思を持たせることができるかどうかが、最大の鍵になるのではないかと思います。一番わかりやすい形は政権交代という形であるでしょうし、そうではなくて、日本政府が今、しきりに言わんとしていることは、「オバマ政権になっても変わらない」ということを印象づけようとしています。
 しかし、日本政府が何をしたいのかということについて、違う勢力が強まるチャンスがうまれているといえます。日本政府はどうしたいのかについて問いただしていく、そのことを抜きに、「オバマになっても変わらない」とは言わせない、というのが、私たちのスタンスではないでしょうか。
(季刊『けーし風』62号(2009.3.20)所収)

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