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2009年1月18日 (日)

中堅国家構想が核兵器禁止条約を初めて論じる

 1月6日に中堅国家構想(MPI)が「最高級の世界の公益--核兵器のない世界に向かうための新しい課題と可能性」と題するブリーフィング・ペーパーを発表した。1月29-30日にベルリンで開催される第6回第6条フォーラムに向けて作成されたものである。
 http://www.gsinstitute.org/mpi/pubs/A6F_Berlin_brief.pdf

 表題の「最高級の世界の公益」というのは、昨年10月24日に潘基文国連事務総長の演説で使われた言葉を援用したものである。その演説の中で、潘基文事務総長は「核兵器のない世界は、優先順位のトップに挙げられる世界の公益である」と述べた。
 MPIは、NPT第6条で謳われた核兵器全廃の義務の履行をNPT再検討会議において前進させるために、同志国家の代表とNGOを招いて、2005年以来「第6条フォーラム」を開催してきた。そして、開催のたびに、国家間の合意の水準を高めるための資料としてブリーフィング・ペーパーを事前に作成、配布してきた。

 今回のブリーフィング・ペーパーの特徴は、核兵器禁止条約(NWC)、あるいは条約の枠組みについて、MPIとして初めて詳論したことである。もちろん、MPIにかかわっているNGO主要メンバーの多くは、NWCの主唱者であり、モデルNWCの作成に従事してきた。しかし、NPTの枠組みにおいて政府間の同意形成を目指している第6条フォーラムにおいて、これを取り上げることにずっと慎重であった。今回のブリーフィング・ペーパーにおいて一歩前進したのは、先に述べた潘基文事務総長の演説によって、同志国家がこの問題に取り組みやすくなったと判断したためであろう。

 前回の第6条フォーラム(ダブリン)のために準備したブリーフィング・ペーパーにおいて、MPIは2010年MPI再検討会議における優先課題として次の7項目を掲げていた。
 1. 検証をともなう核戦力の削減
 2. 核戦力の発射警戒態勢の解除(ディ・アラーティング)
 3. FMCT(カットオフ条約)の交渉
 4. CTBTの発効
 5. 消極的安全保証の強化
 6. 核燃料の生産及び供給に対する規制
 7. NPTのガバナンスの改善
 この7項目は、4回にわたる第6条フォーラムにおける議論を経て、MPIの責任において整理したものである。これらについては、以前に論じたので以下を参照していただきたい。
 「核軍縮、中堅国家構想の挑戦――2010年に向けて」「MPI7PRI_0704.doc」をダウンロード

 今回のブリーフィング・ペーパーも、この7項目の優先課題を継承している。なかでも、1における米ロの役割の重要性、3のFMCTの交渉開始のためには、パキスタン、インド、イスラエル、中国の参加を得るための他の重要項目(消極的安全保証、ミサイル防衛など)への個別の折衝が重要であること、4のCTBTに関しては、米国がCTBT批准のために信頼性代替弾頭(RRW)にゴー・サインを出すとすれば、それがCTBTに悪影響を及ぼすこと、を強調した。

 NWC交渉を奨励する今回のMPIの議論は、従来慎重姿勢をとってきた核軍縮推進派の同志国家、とりわけ新アジェンダ連合(アイルランド、スウェーデン、ブラジル、メキシコ、ニュージーランド、エジプト、南アフリカ)などに向けられている側面が大きい。これらの国は、マレーシア決議と呼ばれるNWC交渉開始を求める国連総会決議に賛成票を投じながらも、NPT再検討会議に臨む自分たちの政策提案の中においては、それを強く押し出して来なかった。それを自分たちの優先課題にするのは時期尚早との判断があったと思われる。これらの国々が現情勢下でどのように変化するかはまだ予測がつかない。そんな中で書かれているMPIの今回の論旨に関して、次の諸点が重要であろう。
 第一に、核兵器廃絶条約の交渉促進はNPTを損なうものではない。NPTの文脈で言えば、第6条の実現のためにNWCは必要とされる。
 第二に、検証可能で強制力のあるNWCの実現のためには数多くの課題が横たわっている。CTBT、FMCT、核燃料の管理・規制などの諸ステップが、NWCの文脈の中で議論されることによってそのような課題に部分的には取り組むことができるであろうが、それだけでは十分ではない。どうしても包括的に全体の枠組みがいかなるものかを提示することが必要である。それが見えないと、個々の部分となる課題も達成できない。
 第三に、検証や強制についての詳細の議論より前に、規範的枠組みの合意を達成するというアプローチが有効ではないか。たとえば、生物兵器禁止条約は、規範はできているが現在でも検証体制は合意されていない。

 市民社会の圧倒的世論に動かされて骨太の規範的条約を作るという動きが生まれてゆくための一つのチャンスが今訪れていると考えるべきであろう。そのためには、市民社会と政治をつなぐ適切な媒介をするNGOが必要だ。

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