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2008年9月 3日 (水)

原潜ヒューストンの放射能漏洩(2)

 08年8月29日、米国は原子力潜水艦ヒューストンの放射能漏洩について、最終報告と断りながら4ページの「インフォメーション・シート」(8・29インフォシート)を提出した。外務省は、これは日本が再三申し入れた結果であると外務省の努力の成果を匂わせながら、例によって右から左へ米国政府の情報のみの垂れ流しを行った。本来ならば、前回の「インフォメーション・シート」(8・7インフォシート)を踏まえて、日本政府はどのような追加情報を求めたのか、新しい情報によってどの程度要求が満たされたのかという、外務省の主体的な取り組みが報告されるべきであるが、それはまったく行われなかった。にもかかわらず、外務省は「今回の報告により、我が国の平和と安定に重要な役割を果たす原子力艦の安全性が再確認された」と結論づけている。
 8・29インフォシートに含まれている新しい情報は極めて少ない。しかし、以下のような情報に注目することができる。

①今回のインフォシートにおいても、米海軍はわずかに漏れていたバルブが、どの部分に付けられたバルブであるかをまったく明らかにしていない。もちろん、バルブの構造や漏れの原因について全く情報を示していない。

②バルブが漏れていないことが確認されたのは2004年であることが、今回の報告で初めて明確になった。前回のブログで書いたように、これはヒューストンがグアムに母港を移す前のブレマトン基地におけるオーバーホールの時であったと考えて間違いない。これは、制度上は4年間もバルブの点検は行われないことを示している。

③問題のバルブがいつから漏れていたかを特定する方法について、報告は「温度や圧力といった原子炉の状態の極めて詳細な記録」を分析した結果であると述べている。これから推定すると、記録では2006年6月から異常が観測され、それ以前に遡ることはないと米軍は結論づけているようである。しかし、報告は、この結論が妥当であるかどうかを考えるに足る情報を示していない。すなわち、「極めて詳細な記録」の分析なるものの内容が分からないのである。

④今回の報告では放射線を出している物質を酸化コバルトであると特定している。これは核分裂生成物ではなく原子炉構造物の放射化の産物であり、その意味では冷却水の漏れであるとして理解できる。

⑤8・7インフォシートと8・29インフォシートで示している佐世保、横須賀、沖縄におけるヒューストンから出た放射能の累積推定値は同じ値である。そして、この算出方法は、予想されたとおり、ヒューストン艦上における標本の実測濃度に記録から計算される漏洩速度と港における滞在時間を掛けたものであると説明されている。この説明は、以下の概算通り妥当なものであろう。(以下の概算では、滞在時間ではなくて、滞在した足掛け日数を使っている。)

ヒューストンの日本の港への寄港記録(06年6月~08年7月)
2006年7月16日  佐世保  1日
2007年2月2日   佐世保  1日
2007年1月25日  横須賀  5日
     3月17日  沖縄   1日
     3月23日  沖縄   1日
     4月13日  佐世保  6日
     12月7日  沖縄   5日
     12月15日 沖縄   1日
2008年3月12日  沖縄   1日
     3月27日  佐世保  7日
     4月6日   佐世保  1日

滞在日数           累積放射能の推定
佐世保 16日(3.2)  13000ベクレル(3.7)
                  (0.34マイクロキュリー)
横須賀  5日(1)     3500ベクレル(1)
                  (0.095マイクロキュリー)
沖縄   9日(1.8)   6300ベクレル(1.8)
                  (0.170マイクロキュリー)
合計  30日        22800ベクレル
                  (0.605マイクロキュリー)
1日平均漏洩量     760ベクレル(0.0202マイクロキュリー)

⑥今回のインフォシートには、7月末時点で19000ベクレルの放射能が寄港した3港に漏れていた可能性があるという推定が述べられている。これは8月2日の日本政府の報道発表と矛盾している。日本政府は「全航海中に漏洩し得た全体の放射能の量」として0.0000005キュリー(つまり18500ベクレル)と伝えていた。日本政府の報道は誤りであろう。軽微な漏洩であると見せるための意図的な誤報である可能性がある。

⑦上記の19000ベクレルという報告量は、約25日分の滞在に相当する漏れである。直近のハワイ、グアムにおけるヒューストンの滞在日数が不明なので正確な推定が困難であるが、8月2日時点で日本政府が佐世保、沖縄までしか通報せず、横須賀が除外されたことと符合している。(注:7月17日の事故の前にヒューストンは6月24日にパールハーバーに入港しているがその後リムパック演習に参加。パールハーバーの前の寄港はグアム。)

 以上のような事実から以下のことが言える。

(1)バルブの位置を明らかにしない背景に重要な事実が隠されている可能性が濃厚になった。通常の理解では、一次冷却系のバルブに僅かでも漏洩があるとすれば大事であり、安心のためにそうでないということを強調するはずである。にもかかわらず、まったくの言及がない。また一方で、一次冷却系のどこかにあるバルブの漏洩がそのまま環境への漏洩につながるということは非常に考えにくい。海軍原子炉の構造について情報開示することなく今回の事故の説明をすることが困難になっている。情報開示の要求を強めるべきである。

(2)日本政府は8月2日の報道発表の誤りを訂正すべきである。0.5マイクロキュリー(18500ベクレル)の放射能漏れは全航海中ではなく、直近の寄港時に漏れた量である。これは些細なことではなく、以下のような意味がある。
 上記⑤に計算したように一日平均760ベクレル(0.0202マイクロキュリー)の漏洩があった。停泊中のみならず航海中も漏れがあったと推定するのが自然であろうから、漏洩に気付かなかった25か月(約750日)の間に漏洩した量は570000ベクレル(15マイクロキュリー)となる。米海軍原子炉全体(約100基)が年間に世界の領海内に放出する水中放射能総量は1ミリキュリー以下であると豪語してきた(米海軍原子力推進計画規制部門ギダ副部長の市議会証言、コロナド市議会公聴会、96年4月9日)海軍にとって、この数字はシステムに警報を鳴らす深刻な数字なのである。

(3)バルブ問題だけではなくて、発端となった「汚染された水が修理中の要員にかかった」という作業中事故とバルブ漏洩水との関係が不可解のまま残っている。この作業は、原子炉作業を扱う施設のあるブレマトン基地に行かずに行う原子炉メンテナンスのルーチン作業の一端を示すと考えられる。原子力空母の母港となる横須賀での作業とも関連して解明する必要がある。

(4)今回も、事実解明に日本政府の主体的な取り組みを窺うことができない。にもかかわらず「原子力艦の安全性が再確認された」という結論を下す態度は、不可解というほかない。

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